消える資格

様々な技術の進歩は、時に従来の仕事のやり方をすっかり変えてしまうもの。以前は、人気のあった職業やスキル、専門知識でも、今ではそれほど必要とされない、というものは少なくありません。ある仕事がなくなれば、当然その仕事をするために必要な資格もなくなってしまうのです。

少し古いですが、例えば、かつての電電公社の認定資格として存在した「電話交換取扱者」。
いわゆる「ひも式」の電話交換機が主流だった時代に、外線の交換手として仕事をするために必須の資格だったそうですが、1984年には廃止されています。
そういえば、ガイドが人材派遣会社のコーディネーターをしていた1997年ごろは、まだ「ひも式」も存在していて、わずかながら経験者や有資格者が優遇されていましたが、「ボタン式」への移行に伴い、こうした資格効果はもはや期待できなくなってしまいました。
このように、その資格を必要とする仕事の先行き次第では、関連資格も廃止の憂き目にあってしまうことがあるわけです。

■結論:人気の職業が永遠に人気とは限らない!
無常にも世の中は移りゆくもの。「消える資格」を取らないためには、その資格を必要とする職業、業界の将来をしっかりと見据えることが大切です。資格そのものだけでなく、技術の進歩や法改正など、常に世の中の動きにアンテナを張っておきましょう。


条件その2:強力な競合資格がある、競合資格が多い独占業務を持つ国家資格などとは違い、分野によっては民間資格、公的資格が乱立状態、受験者の争奪戦が繰り広げられています。

そんな競合資格が、特にひしめくのがIT分野。めまぐるしく技術が発展するこの分野では、新資格が次々に誕生。また「マイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)」のように、日々「バージョンアップ」している資格も数多く存在しますが、その一方で「消えた資格」も多いのです。

例えば、スタートは1983年と関連資格としては比較的歴史を持つ資格であった「パーソナルコンピュータ利用技術認定試験(PAT認定試験)」が試験中止を発表したのは、2006年度のこと。
はっきりとした理由はわかりませんが、主催者である(社)パーソナルコンピュータユーザ利用技術協会曰く「健全な運用が困難であるため」。2006年6月に同協会は解散、以後試験は行われていませんから、事実上の廃止です。
同試験は、アプリケーションソフトの使用やインターネットの基本操作など、エンドユーザーの幅広いスキルを測定するものでしたが、各種の有力ベンダー資格や、国家資格であるシステムアドミニストレータ試験などが存在するこの分野では、必ずしも抜きん出た特徴を持つとは言えなかったことも廃止の要因なのかもしれません。
2004年時点で合格者30数万人を数えた人気資格ながら、認定協会が消失した今となっては履歴書への記載も微妙。うーん、問題アリの事例ですね。
IT関連では、他にも「パソコン技能検定CAD試験」(「個人情報保護士認定試験」で知られる全日本情報学習振興協会)、「パソコンネットワーク利用技術認定試験(NASKA)」、「デジタル技能検定」など、ひっそりと「消えた資格」は、実は多数あるのです。

また、競合資格が多いだけでなく、TOEIC、英検という強力な二大検定を擁する英語系資格も、いわば資格が「消えやすい」分野。
例えば、「オフィス・コミュニケーション英語検定」(全国語学ビジネス観光教育協会)は2000年度に廃止。「オフィス」と銘打ちながら、実務経験が要求されるレベルの試験内容ではなかったために、受験者も学生中心。肝心のビジネスパーソンに普及しなかったのが要因のようです。

■結論:競合資格が多い分野では国家資格、メジャー資格が安心!
競合資格が乱立状態の分野では、どうしても受験者の争奪戦に陥りがち。受験者数が伸びなければ、資格の認知度も上がらず、資格試験の運営そのものが立ち行かなくなることも。
特に、国家資格や毎年コンスタントに合格者を輩出しているメジャー資格が存在するITや英語関連分野では、こうしたある種の「安定感」を持つ資格を目指した方が無難でしょう。


条件その3:成長分野ゆえに、資格制度が流動的「条件その1」とは矛盾するようですが、「時代に取り残される」資格だけでなく、実はIT、コンプライアンス、介護など、いわば「時代の最先端をいく」資格にも注意が必要です。
とは言え、この場合はこれまでのケースとは少々事情が異なり、単に資格が「消える」というよりも、新たな資格に生まれ変わる、というケースがほとんど。

例えば、既に今年3月の試験をもって終了が決まったのが「知的財産検定」(知的財産教育協会)は、国家検定化に伴う廃止。いわば「発展的解消」ですから、今までご紹介してきたケースとは違い、従来試験の合格実績がまったくムダになるというわけではありません。
ただし、たとえ旧試験に合格していても、そのままでは「国家検定」とは見なされず、移行には講習と修了試験の合格が必要。それなりの労力が求められることになります。

また、最先端資格だからこそ、時代のニーズに応じて資格制度自体が改変されることもしばしば。このような改変で従来資格が「消える」ことが決定しているケースには、「初級システムアドミニストレータ」があります。また、「ホームヘルパー3級」は介護保険法改正により、2009年からは介護業務の提供ができなくなるため、事実上の「廃止」になる予定。いずれも多くの受験者を集める「超」人気資格だけに「廃止」というニュースは様々な波紋を投げかけました。

■結論:資格制度の過渡期には改変内容をしっかり確認!
資格制度の改変などにより、目指す資格が近々「消える」可能性がある場合、今取得すべきか、改変後に取得すべきか迷うところでしょう。
例えば、3級に続いて、将来的に「廃止」が噂される「ホームヘルパー2級」の場合は、今後介護・福祉職に就くために必要となる「介護職員基礎研修」の受講時間の一部が免除されるなど、取得者に有利な要件があるため、いずれ使えなくなるとしても取っておく価値は十分にあるという意見も。

また、国家検定化などに伴う従来取得者の移行措置には、今回の「知的財産検定」のように講習の受講や専用の試験などが設けられるケースが多いのですが、その場合も、一からの受験よりは多少ハードルが低くなることが予想されるため、「廃止」まで多少の時間があるという場合には取得しておくのも一考です。

問題は、今回の「初級シスアド」のようなケース。
改変後の資格制度の中に旧資格に該当する資格が存在しない場合、通常移行措置は取られません。
一方で、旧資格にそれなりのネームバリューがあり、新資格制度が普及するにはそれなりの時間も必要。そんなときには、二重の手間は承知であえて両方取得しておくという手もあるでしょう。
特にIT分野など、技術革新のスピードが速い分野では、「消える」「消えない」にかかわらず、新しい資格をコンスタントに取っておくというということの方が重要になるのかもしれません。