おける世界遺産登録地

世界遺産登録を受け一躍人気観光地となり、その後のエコツーリズムや山ガールブームの火付け役となった屋久島、熊野古道紀伊山地の霊場と参詣道)、知床。一時期、急激な観光客の増加で自然保護が危ぶまれたこともあるなど、世界遺産のメリットとデメリットを経験している。そんな3つの地域の現在の取組みを聞いてみた。

約500m2の島の中で亜熱帯から亜寒帯まで体験できる、屋久

 鹿児島市から約130km南に位置する屋久島。約500km2の島の中に、1800m超の山が7、1000m超の山が46も連なり、森には、亜熱帯から亜寒帯までの植物が山頂へ向かって連続的に分布。それは、九州から北海道までの気候がこの島で体感できるということだ。毎年夏になるとウミガメが上陸する美しい浜もある。固有種のヤクシカやヤクザルに出会う確率も高い。一方で、南の島なのに、11月以降は積雪があり山は閉ざされる。

 屋久島を一躍人気観光地へと変えたのが、樹齢2000年以上の縄文杉をはじめ、樹齢1000年以上の屋久杉が林立する森。世界遺産に登録されたのは1993年。山ガールの憧れの地ともなった宮之浦岳を中心とした島の中央山岳地帯(西は国割岳から海岸部まで。南はモッチョム岳。東は愛子岳までのエリア)で、島の約21%にもなる。

登録後観光客増加。2007年で前年比122%

 世界遺産登録後は、観光客の増加はもちろん、大学などの研究機関からの注目度も高まったという。「それまではあまり重要視されていなかった自然保護に対する考えが、裾野まで広がり、観光客のマナー意識も向上したようです」と話すのは屋久観光協会の西川氏。エコツーリズムが盛んになってきた2007年には、島の訪問数は前年比122%に。38万6千人近くが訪れた。

 しかし、観光客、登山客の増加と共に起きたのが、登山道の裸地化や、紀元杉や縄文杉周辺の土壌の変化だ。そこで、紀元杉、縄文杉の前にはデッキを作成、現在は直接杉に触れられないようになっている。また、屋久島環境文化村センター、屋久島環境文化研修センターを設立。自然環境保護の広報を積極的に行った。

 今年、エコツーリズム推進全体構想が策定。2013年までに段階的に入場数制限などを行う(「屋久島町エコツーリズム推進全体構想について」、「屋久島地区エコツーリズム推進協議会」)。

なでしこ効果でさらに参詣者増加!?   パワースポット人気の熊野古道

 太平洋を望み、和歌山県奈良県三重県の3県にまたがって広がる紀伊山地熊野三山、吉野・大峯、高野山の3つの霊場と、それぞれから伊勢神宮や京都へ結ばれる参詣道が、世界遺産に登録されたのは2004年。信仰を育んだ神秘的な自然と人々の営みが一体となった「文化的景観」とともに、世界に比類のない文化遺産であるという評価を受け登録となった。

 苔むした石畳や那智の滝をはじめ、マイナスイオンあふれる大小さまざまな滝が点在する熊野古道弘法大師が開いた真言密教の世界に触れられる高野山、春には山全体が桜色に染まる吉野山など、総面積50ヘクタール、300km以上にもおよぶ参詣道。中でも気軽なエコツーリズムとして注目されたのが、熊野三山を巡る和歌山県内の熊野古道だ。同時に女性をターゲットとしたメディアを中心に「パワースポット」としても取り上げられ、人気が高まった。特に熊野三山で信仰されている三本の足を持つ神鳥「八咫烏(ヤタガラス)」は、日本サッカー協会のシンボルマークとしても有名。なでしこジャパンがドイツへ向かう前に必勝祈願に訪れていたこともあり、ますます参詣に訪れる人が増加する見込みだ。

民共同事業が続々と誕生

 2006年には、和歌山県田辺市内の5つの観光協会(田辺・龍神・大塔・中辺路町・本宮)を構成団体として、官民共同で田辺市熊野ツーリズムビューローを設立。積極的な観光プロモーションを行い、2010年には法人格を取得し旅行業にも着手している。さらに、田辺市和歌山県で建物を作り、コンペ方式で決定した民間の委託先に運営を任せる、公設民営方式の宿泊施設「霧の郷たかはら」が2008年にオープン。

 また、年間を通して雨量が多く、台風の被害にもたびたび見舞われることから山中に続く参詣道は傷みやすく、継続性のある保全活動が必要不可欠であるが、参詣道に土を入れて修復する「道普請」への参加を民間企業に呼びかけ、現在、17団体、1115名が参加し修復活動を行っているなど、官民一体となったあらゆる取組みが行われているのが特徴的だ。

 世界遺産登録をきっかけに、川の参詣道である熊野川の川舟下りも復活(熊野川川舟センター)。ウォーキングイベントや熊野古道ガイド「語り部」の組織も充実している。

 100m2運動で自然を保護、登録へ。世界最南端の流氷接岸地、知床

 アイヌ語のシリエトク(地の果ての意味)から名づけられた知床半島。海底火山活動で海中から山脈が隆起してできた半島はほとんどが未開拓。道路は半島の半分ほどまでしかなく、手つかずの大自然が残されている。

 知床は、流氷が接岸する世界最南端の地であり、海と川、森が一体となった独特の生態系を持つことから、ヒグマなどの哺乳類、サケやマスなどの魚類、クジラなどの海生哺乳類、希少種に認定されているシマフクロウオジロワシなども生息する野生動物たちの楽園だ。これらの季節海氷による海洋生態系と陸上生態系が複合した特異な生態系が評価され、2005年に世界自然遺産に登録された。

 登録が決定した際、知床半島国際自然保護連合(IUCN)からいくつかの課題解決を求められた。エゾシカの個体管理、半島の先端部への立入規制、海域の生物を保護するガイドラインの策定などだ。これらの対策を行うために知床五湖の利用ルールが作られ、エコツーリズムの検討会議も行われている。

 知床に広大な手付かずの自然が残されているわけは、30年以上前から国立公園を管理する斜里町が進めてきたナショナルトラスト運動「しれとこ100平方メートル運動」の成果である。これは、国立公園内の開拓跡地の乱開発を防ぐために、土地の買取や植樹のための費用を8000円を一口として全国に寄付を募った運動。1997年には寄付金が5億2000万円集まり、保全対象地の97%の土地を取得し植樹も進んでいる。さらに、1997年からは「100平方メートル運動の森・トラスト」と名づけ、原生林の再生を続けている。

 これらの長年にわたる取組みは世界遺産に登録されたことで知られ、現在の運動参加者は述べ1万4564人(2011年1月現在)。金額は2億4900万円を超えた。

 知床での人気のある楽しみ方は、観光船で海から半島の大自然を眺めること。冬場には流氷やオーロラを体験できる観光船ツアーもあり、1年を通して雄大大自然に触れることができる。

登録されることで成熟した観光地へと変貌

 世界遺産は、ヨーロッパやアジアでは誰もが知る存在だが、開拓精神旺盛なアメリカでは興味を持つ人は少なく、「世界遺産」という言葉もあまり浸透していないという。もしかしたら世界遺産は、世界を知る上でキーポイントとなるブランドのようなものなのかもしれない。しかし、登録されることで地域の歴史や自然、文化が守られることはもちろん、観光産業の発展につながることも事実だ。特に日本では観光需要が飛躍的に伸びることもあり、成熟した観光地へと変貌する場所も少なくない。今後も日本、あるいは世界における世界遺産登録地に注目していきたい。

知られざる世界遺産

 最後に、世界遺産所条約に基づく文化遺産、自然遺産、複合遺産と、無形遺産条約に基づく無形遺産が、世界遺産活動の主なものとして知られているが、他にも世界遺産に相当する価値が認められたものがある。今後の注目観光トレンドとして紹介しておこう。

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