因果関係のある風評被害

 「いつもはこんなに(在庫を)積んでいないんだが…」。23日午後、横浜市神奈川区横浜市中央卸売市場本場で卸売業者はため息をついた。市場内には多くの段ボール箱が積まれたまま。「どこか販売してくれるところを探さなければ」と肩を落とした。

 同市場で青果卸売業を営む横浜丸中青果によると、関東産全体の野菜を買い控える傾向が強まっているという。「箱単価で通常の相場の3分の1まで価格が下がったものもある。風評被害は深刻」と同社の担当者は表情を曇らせた。

 市場関係者によると、消費者不安を反映し1日分以上の野菜が在庫として残っている。一部のスーパーなどは「県名を名指しで『一律お断り』の店もある」(市場関係者)という。県内で115店舗を展開している生協「コープかながわ」では、福島県産の農産物の出荷制限が出される前の21日、同県産のホウレンソウなどを撤去するよう、各店舗に連絡した。担当者は「国が出荷制限を出す前に先回りして対応した」と話している。

 ■市場に測定器導入  中央卸売市場を管理する横浜市は、同市場の本場と南部市場(金沢区)の両市場に、1台ずつ放射線量の測定器を導入する方針。

 市食品衛生課は「安全性を再度確認するため」と話している。万が一、流通品で暫定基準値を上回る値が確認された場合、市は自主回収などの措置を指示するという。月内の導入は難しいが、同課は「できる限り速やかに開始したい」としている。しかし、市場関係者の中には「横浜で測定を行ったことで(基準値を上回り)品物が市場から出荷できなくなった場合、どうすればよいのか」といった声もある。

 ■乳製品にも影響  福島県産の原乳が出荷制限となり、県内に流通する牛乳や乳製品にも影響が出ている。県内の牛乳販売店約410店舗で構成される「県牛乳流通改善協会」の大久保郁也事務局長は「各メーカーは福島県産の除外で原乳不足となり、販売店への配送も滞っている」と打ち明ける。

 東北地方に多数ある乳製品工場が震災被害を受けた上に、原発事故による福島県産の出荷制限が原乳不足に追い打ちをかけ、乳製品不足となっているという。乳製品でも風評被害の心配があるが、横浜市立小学校に給食用の牛乳を納入している県内最大手のタカナシ乳業の担当者は「給食用は県内産限定で生産しているので、放射線などの心配は全くない。安心して飲んでもらえる」と、安全性を強調した。

政府は24日、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、福島県産のホウレンソウなど政府が出荷制限した以外の農産物についても、風評被害が及んだ場合に原子力損害賠償法に基づく補償の対象とする方針を固めた。

 一義的に東電が負担するが支払い能力を上回る場合は国が支援する。

 「事故と相当な因果関係のある風評被害は補償せざるを得ない」(政府関係者)との判断で、過去には、茨城県の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」東海事業所で1999年に発生した臨界事故でも風評被害への補償が行われたことがある。

 文部科学省によると、損害賠償処理のため、国の原子力損害賠償紛争審査会を設け、被害認定の指針を定めるほか、東電と被害者の交渉が不調の際の仲介なども行わせる見通しだ。

 これに関連し、福島県出身の国会議員が24日、首相官邸を訪ね、政府による被害農産物の買い取りを要請した。