原子力損害

近年、原子力エネルギーは地球温暖化防止対策の切札と言われ、これに関連したダイナミックな動きが世界中で見られます。
 
 原子力の安全には、常々、万全を期した諸対策が取られていますが、それと共に、万一の事故に備え、被害者の救済と原子力事業の健全な発達を目的として、多くの国で原子力損害に関する賠償制度が設けられています。
 
 つまり、原子力産業は、安全対策と賠償制度が一体となって、その安定が守られる仕組みになっているのです。

 我が国の原子力損害賠償制度に関する法律は、来年1月の施行を目指して改正される予定であり、改正内容等については既に原産新聞でもお知らせしています。

 ところで、あなたは「原子力損害賠償制度」についてこんな風に思っていませんか?
・ わが社は法律に基づいた賠償額を手当てしているので、全く心配はしていない
・ 事故の責任を取るのは原子力事業者だから機器メーカーのわが社には関係ない
・ 下請けとして部品を納めているわが社にはなじみのない話
・ 地元としては、この制度で被害者への十分な補償が得られると安心している
・ 損害賠償の話は、万事、弁護士の先生にお任せしているから大丈夫
本当に、それで大丈夫ですか?

 一旦原子力事故が起きてしまうと、膨大な額の損害賠償請求が発生する可能性があります。実際、JCO臨界事故では、放射性物質の飛散などが無かったにも関わらず、約七千件の損害賠償請求が事業者に対してなされ、その総額は150億円にものぼりました。

 万一の事故のとき、あなたの会社が納めた装置や部品が原因の事故と言われたら、損害賠償について、どのようなことを考えますか?

 原賠法にある「原子力損害は原子力事業者が賠償する」という制度をご存知かもしれません。しかしこれは日本の国内法です。事故による損害が国外に及んだ場合や国際輸送の事故など、どのような裁判が行われ、どのような賠償リスクを想定していますか?

 また、世界では原子力ルネッサンスと言われるほど原子力産業が注目されています。この波に乗ってあなたの会社が国際的にビジネスを展開しようとしたとき、あなたは海外での損害賠償リスクをどのように考えますか?

A1.
・ 多数の関係者(電気事業者等の原子力事業者、プラントメーカー、サプライヤーなど)が訴えられ、裁判が複雑化・長期化する可能性があります。
・ 巨額の賠償責任を負う会社が、その負担に耐え切れず倒産してしまう可能性があります。
・ 賠償責任を果たせず会社が倒産してしまえば、被害者は損害の補填を受けられないことになります。
原子力災害はさまざまな損害をもたらしますが、被害者は、加害者の過失や事故と各損害との因果関係を1つ1つ証明しなければならなくなります。

【A1.の解説】

 「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」がなければ原子力事故の場合も一般的な事故と同じ扱いになります。

 事故などにより第三者に損害を与えてしまった場合、一般的には原子力事業者もしくはプラントメーカー等が民法不法行為法(場合によっては債務不履行)による賠償責任を負うこととなります。

 一般的に、不法行為責任の発生は4つの要件(違法性(権利侵害)、加害者の故意または過失、損害の発生、違法行為と損害の間の相当因果関係)を充足する必要があります。

 しかし原賠法があれば、発生した損害が原賠法で規定された原子力損害(注)に当たる場合に適用となり、責任の所在や不法行為の発生要件が変わってきます。

 (注)原子力損害とは・・核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう(原賠法第二条2項)。

原賠法の概要
・無過失責任と責任集中
 原子力事業者は故意又は過失がなくても原子力損害を賠償しなければなりません。また原子力事業者でない者は原子力損害の賠償責任を負いません。
・賠償措置の強制
損害賠償措置の強制により原子力事業者の賠償資力が確保されています。
・国家補償
事業者による措置でまかなえない損害や、事業者の責任範囲外の損害は国が補償します。