わが国の借金

菅直人首相が押し切った「小沢切り」への党内の反発はすさまじく、各地で造反の“のろし”が上がっている。そんな国民不在のぐちゃぐちゃの政局の中、金融市場は政権にそっぽを向きつつある。このまま首相が居座り続けると、ついには国を滅ぼしかねないと危惧する声も出てきた。

 菅執行部は2月22日の民主党常任幹事会で、強制起訴された小沢一郎元代表に対し、判決確定まで党員資格を停止する処分を最終決定した。造反議員が相次ごうと、新聞などの世論調査の支持率が低迷しようと、菅首相の「小沢切り」の意志はまったく揺らがなかった。官邸関係者が、こんなエピソードを明かす。

「この前夜、菅さんは赤坂の和食店原口一博総務相と会食したのですが、原口氏が『仲間の小沢さんをなぜ切るのか』と翻意を促すと、菅さんは『小沢さんのような政治家は後世に残せない。私のときで終わりにしたい』と言い切ったそうです。原口氏が『小沢さんも若くないのだから配慮しても』と食い下がっても、菅さんは『そこは譲れない』と突き放しました」

 この会食後、菅首相にも動揺があったのか、原口氏の背広を間違えて着て帰るハプニングがあったという。

菅首相はポケットに入れているはずの老眼鏡がなくて、間違いに気づいたようです。あとから秘書官が背広を替えにいったそうですが、それまで原口さんは、仕方なく少し窮屈な菅首相の背広を着て、記者の囲み取材にも応じていたそうです」(前出の関係者)

 菅首相は、「小沢切り」が党内の反抗勢力に火を付けることは想定していただろう。ただ、その火はおそらく首相の想像を上回る勢いで燃え広がった。

 24日、まず小沢氏の側近で農水政務官を務めていた松木謙公氏が辞任した。

松木さんは4月の統一地方選をにらんで、河村たかし名古屋市長らの地域政党と連携できる新党を立ち上げることも覚悟しているようです。小沢グループで政務三役に就いているのはあと6人いますが、何人かは後追いし、合流する可能性があります」(小沢グループ幹部議員)

 また同日、小沢氏に近い中山義活・経済産業政務官松原仁衆院議員ら東京選出の国会議員10人と、統一地方選の候補予定者41人が、政策集団東京維新の会」を発足させた。代表世話人の中山氏は記者会見で、
「消費税が上がるのを許すことはできない。2009年マニフェストの原点に戻り、党を改革すべきだ」
 と菅首相を痛烈に批判。原口氏が設立表明した「日本維新の会」や河村市長らが率いる地域政党との連携を目指すとも明言した。

 さらに同日、かつて民主王国だった名古屋でも「菅降ろし」の“のろし”が公然と上がった。

 名古屋市長選や愛知県知事選など「トリプル投票」で河村市長に大敗した民主党愛知県連が、菅首相に退陣を求める決議を採択する方針を固めたのだ。

「北海道でも道議、札幌市議ら60人が菅首相宛てに『党内一致』を求める要望書を提出するなど、『菅降ろし』は全国に広がっています」(民主党幹部)

 同じく24日に開催された民主党代議士会では、小沢グループの波状攻撃にいらだったのか、いつも無表情の岡田克也幹事長が激高する場面があった。

 菅執行部が政党支部に配布した政策ビラ「プレス民主号外」が論議された際のこと。このビラは30種作られ、《伸子さんのちょっとイイ話》と題して菅首相夫人の伸子さんが漫画で登場して子ども手当など政権の“実績”をアピールするなどの内容だ。

 ビラ批判の口火を切った小沢グループの大谷啓衆院議員がふり返る。

「党で菅伸子さんを広告塔にすると決めた覚えはありません。他のビラも、《政権交代で景気回復》《天下りゼロ》など、首をかしげる内容でした。政権交代しても景気はよくなっていないし、民主党政権下でも天下りは根絶できていない。こんな内容じゃあ、かえって地元の有権者を逆なでする恐れがあると訴えただけなのですが……」

 大谷氏の発言後、場内では罵声が飛び交い、たまりかねた岡田氏が「何を言っているんだ」と一喝。激しくヤジった若手議員3人を立たせるなど、まるで「学級崩壊」のような惨状になったのだ。

 党内がそんな状況なら、国会でも菅政権は立ち往生が続いている。2011年度予算関連法案の中核である特例公債法案など3法案は、野党の反対で成立のめどがまったく立っていない。

 民主党ご意見番渡部恒三最高顧問までもが、
「菅君よりも、予算案、関連法案を通すことを最優先に考えなくてはならない」
 と述べ、首相退陣もやむなしとの認識を示唆した。

 民主党国対幹部が言う。

「官邸は、とにかく何もわかっていない。かつて公明党批判を繰り返した菅さんを公明幹部は嫌っており、“仏敵”となっている。菅さんが首相である限り民主党には協力しないでしょう。それなのに菅さんは、統一地方選が終われば公明党民主党に寄ってきて、関連法案に賛成してくれると居座るつもりです」

◆円・株・債券のトリプル安に?◆

 これだけ状況が悪くなっても、菅首相に辞める気はさらさらないのだろう。少しでもその気があれば伸子夫人をビラに使うことはありえない。問題はこの居座りが日本の経済に悪影響を与え始めていることだ。

 1月に格付け会社スタンダード&プアーズが日本国債の格付けをAAからAAマイナスに引き下げた。すると、この影響もあって国債長期金利が上昇(国債価格は下落)し、2月に入ると一時的に9カ月ぶりとなる1・3%台に乗った。

「菅さんがこのまま居座ったら、円安、株安、債券安のトリプル安になるだろうというのがマーケットの見方です。そうなると、長期金利は1・6%くらいまで跳ね上がるでしょう」(市場関係者)

 金利が上がれば利払いが増える。民主党幹部がこうぼやく。

「わが国の借金は1千兆円近くもありますから、0・1%金利が上がると、単純に言えば1兆円借金が増えることになる。1・3%の金利が1・6%になったとすれば、3兆円分財政が悪化する。菅さんはいるだけで借金を増やすんです」

 消費税1%の税収は2・5兆円とされるが、金利の上昇で吹き飛んでしまう。菅首相が居座れば、国が破綻しかねないというわけだ。

 今後倒閣の動きはどうなるのか。民主党幹部が言う。