ジーンズ

市場での株価上昇とは裏腹に、ジーンズ専門店は目下、苦境の真っただ中にある。最大手のライトオンは2010年8月期に創業来初の最終赤字に転落した。マックハウスジーンズメイトも、11年2月期は2期連続の営業赤字となりそうだ。

 確かにデフレ不況が続く中、衣料品業界はおおむね厳しい。が、ユニクロしまむら、ポイントなど、一時的な波はあれ、堅調な企業も一方では存在する。「カジュアル色の強い服の割合を増やせば、売り上げが稼げる」とある中堅衣料専門店の幹部が語るように、カジュアル専門店は比較的順調と言えるだろう。

 だがジーンズは別である。ライトオンでは08年11月以降、既存店売上高の前年割れが続き、2割以上下回る月も珍しくない。07年8月期に1066億円あった売上高は、10年8月期には869億円に落ち込んだ。大手3社はみな同様に深刻だ。

 なぜジーンズが目立って縮小するのか。原因の一つは価格破壊だ。09年にファーストリテイリングの低価格業態「ジーユー」が発売した990円ジーンズを皮切りに、イオンの880円、ドン・キホーテの690円など、激安品が続々と登場。低価格イメージがすっかり定着した。その結果、専門店では「売れ筋が1万円から7000〜8000円に切り替わった」(ライトオン)。

 単価下落でも需要は増えず。ジーンズ自体、流行の波から取り残されたのも大きい。中でも09年ごろからの「レギンス・ブーム」がジーンズ離れの引き金となった。「レギンスにスカートを合わせるファッションが広がりジーンズ需要が低下した」(日本ジーンズ協議会の佐伯晃氏)。05年のプレミアムジーンズ・ブームからの反動もある。ジーンズ生産は05年のピーク時7000万本から5000万本へと急減してしまった。

 「価格破壊」に「流行遅れ」と、二重苦に悩まされるジーンズ専門店。現状打破のため出した答えは、皮肉にも“脱ジーンズ”である。

 業界2位のマックハウスは、アウトドアやスポーツ向け衣料を強化し、差別化に打って出た。ジーンズメイトもアニメキャラクター商品の投入や、女性向けファンシー雑貨店など新業態を開発している。今や本丸のジーンズ店ですら、店舗の前にはジーンズ以外の商品が多い。

 それでも、売上高の3割程度をジーンズが占める専門店にとっては、本業の販売不振が底を打たなければ、新事業への軍資金を捻出することもままならなくなる。

 ジーンズ業界に詳しい繊維流通研究会の南充宏氏は「トレンドを逃したジーンズでは次のブームは3〜5年先」と分析する。リーバイ・ストラウス・ジャパンも11年11月期は前期並みの21億円の営業赤字予想。昨年に日本国内から香港へ集約したばかりの商品企画部門を、さらに本国の米国へ移すことを検討している。縮小する日本市場の重要度が薄れたのは間違いない。

 この先業界にはどんなシナリオが待っているのか。最も動向が注目されているのは、ジーンズメイトだ。07年2月期に107億円超まで積み上がった利益剰余金はすでに50億円を切った。昨年11月に社員の3分の1に相当する109人の早期退職を実施。売りだった24時間店舗も営業時間を短縮し始めている。このまま赤字が続けば、いずれ資金不足が顕在化してもおかしくない。

もっとも現金流出はあったものの、過去からの“蓄積”で、同社の自己資本比率は79%と依然高い。都心の駅近くに多い店舗は、売り場面積が80坪程度と狭いが、立地のよさは魅力的だ。PBR(株価純資産倍率)が0.5倍を下回ることから、「割安」の同社株が狙われたのは容易に想像できる。

 本業での浮上策が見いだせないジーンズメイトに対し、業界では「自力再建は難しいのでは」との声も出始めた。同業以外にチヨダのような靴専業店も含め、提携や合併などがいつあってもおかしくはない。突然の株価暴騰は業界再編ののろし、との憶測は消えない。