基準地価

国土交通省が21日発表した今年7月1日時点の基準地価は、大都市圏で下げ止まりの兆しがうかがえたが、リーマン・ショック後の下落による割安感や、住宅ローン減税などの政策効果が物件の購入・投資意欲を後押ししたとみられる。だが、時限措置の政策効果はいずれはげ落ちる見通しに加え、最近の円高・株安で景気の先行き不安も広がっており、下げ止まりの気配がない地方圏も含め地価の本格回復は見えていない。

 東京都心から電車で約30分のJR武蔵小杉駅川崎市中原区)。周辺は工場地帯だったが、今は高層マンションが林立する。この地点の住宅地は前年比2.8%上昇(09年3.2%下落)、商業地は2.9%上昇(同9.3%下落)と大きく回復した。3月には新駅も開業し、成田空港に直結する列車が停車するなど地の利の良さが建設ラッシュにつながっている。全国の上昇率で上位を占めた名古屋市緑区も市営地下鉄の延伸が寄与した。

 東京、大阪、名古屋の3大都市圏の地価は今年上半期(1月1日〜7月1日)に限ると、住宅地の下落率は0.9%、商業地の下落率が1.6%にまで改善。不動産経済研究所がまとめた首都圏マンション市場動向によると、8月の発売件数は2268戸で前年同月比18.5%増。都心部のマンション価格に値ごろ感が出てきたこともあり、前年実績を上回るのは7カ月連続だ。

 政策効果も追い風だ。住宅ローン減税の拡充に加え、長期固定型住宅ローン「フラット35」の金利優遇、住宅取得資金の贈与を受けた場合の非課税措置など政府が住宅市場をテコ入れした。

 また、大都市圏のオフィス市場も改善の兆しが出ている。リーマン・ショックで激減した不動産投資が、景気持ち直しの動きとともに徐々に復調してきたためで、不動産大手によると、丸の内や大手町の大型ビルで賃貸オフィスの契約の動きが出ているという。

 中国マネーの動きも活発だ。今年上半期に地価が上昇に転じた東京都港区では、中国系の不動産会社が6組の台湾人にマンション購入を仲介。日本支店の代表者は「仲介ノウハウを蓄積して1年以内に中国本土の富裕層を日本の不動産市場に呼び込みたい」と話す。

 一方、地方は深刻だ。北海道函館市の観光地「五稜郭」に近い同市本町は下落率が15.9%。周辺商店街の「シャッター通り」化が加速し、料理店を経営する深谷宏治さん(63)は「市の中心部の人通りが減る一方だ」と嘆く。

 円高の打撃が懸念される輸出企業の工場がある地方も不動産取引は低迷する。カネボウなど大手の工場の撤退が続く山口県の下落率は、住宅地が過去最大の5.0%、商業地も6.7%と前年から0.4ポイント拡大。キヤノン東芝などの工場がある大分県も地価の上昇地点がゼロで、地元の不動産鑑定士は「景気の先行き不安から土地取引が低調になっている」と指摘する。

 さらに、住宅取得の資金の贈与を受けた場合の非課税措置が来年から廃止となるほか、住宅ローン減税も順次、縮小されていく。政府は「フラット35」の金利優遇の期限を今年12月末から11年末まで延長する方針を決めたが、期限を迎えれば、政策効果も消えていくことになりそうだ。