スマートグリッドシステム

その状況になってくれば、前途は洋々たるものである。いま全世界で自動車を使える人は、世界人口の1割ほどしかいない。残りの9割は、まだ自動車を使うことを夢みている状況である。環境のことを考えれば、そのような人びとにこれから化石燃料で走る車に乗ってもらうのは難しい。だが、電気自動車ならば問題ない。まったく新しい自動車社会を到来させることができる。

 つまり、先進国と途上国を合わせて考えれば、電気自動車にはこの先に、まだ10倍のマーケットがあるのだ。自動車のビジネスはいま、年間で300兆円規模である。これが500兆円、1000兆円規模と拡大していったときに、どれだけのシェアを取れるか。そこが、これからの日本にとって大きな岐路になるだろう。

 電気自動車そのものの生産は、途上国も含めて、あらゆるところでなされるようになるだろう。もちろん自動車の場合は、安全性能や走行性能などについて家電やコンピュータなどとは違う次元の経験の蓄積が必要とされるから、単純には考えられないが、それでも「垂直統合か、水平分業か」と問われれば、明らかに後者の姿に近づいていくはずである。いままでのように、「エンジンをつくれるメーカーが自動車会社」ということではなくなってくる可能性は大いにある。

 私がやっている電気自動車の技術だけであれば、すぐに真似られてしまうことも、もう目にみえている。その先は、技術、製造、サービス、付加価値をうまくセットにできた国が、これからの大きなチャンスをつくっていけるのであろう。

 その際に、日本が大きなアドバンテージをもっているのは、「電気自動車を核にした社会全体のエコシステムの構築」ではないだろうか。発電所から、家庭用の太陽光パネルスマートグリッドシステム、そして電気自動車までを組み込んだトータルパッケージを組み上げる。日本はそれぞれの分野で、技術も満点だし、サービスも満点だ。それらをうまく絡み合わせていく可能性を、真剣に、そしてスピード感をもって追求してはどうか。

 先ほど紹介したように、「SIM-LEI」を停めるスペースのガレージの屋根に太陽電池を付ければ、年間で15,000km走行できる。これは途上国の人びとにとっても大きな福音となるだろう。また、電気自動車の蓄電池は、電力事情が悪い国々でも、家庭の電化に大きな威力を発揮するはずだ。このようなパッケージで提案すれば、地球上の多くの人びとが憧れる「夢の生活」が、きわめて環境に優しいかたちで実現するのである。

「夢をかなえるもの」こそが、需要の爆発を引き起こす。そして、電気自動車は間違いなく、そのポテンシャルを秘めている。日本はいまこそ、東日本大震災という大きな不幸を奇貨として、電気自動車とともに生きる社会をつくりあげ、世界に「夢」を訴えていくべきではないだろうか