海上保安庁

海上保安庁の巡視船が、沖縄・尖閣諸島近海で中国漁船の体当たりを受けた事件で、改めて海保の存在がクローズアップされている。尖閣諸島など国境の最前線で領海・排他的経済水域EEZ)の警備を担うとともに、人気映画シリーズ「海猿」で知られるような海難救助、密輸・密漁などの犯罪捜査も担う「海の警察」。このほか海洋調査活動や海外での海賊対策など、活躍の場は幅広い。(千葉倫之)

 日本の領海(領土から約22キロ)は約43万平方キロ、EEZ(同約370キロ)は約405万平方キロ。国土面積(38万平方キロ)は世界で61位に過ぎないが、領海とEEZの合計は世界6位の広さを誇る。そんな「海洋国家」日本の海の治安維持を担うのが海保だ。

 英語名は「JAPAN COAST GUARD」、直訳すれば「日本国沿岸警備隊」。国土交通省の外局で、職員数は約1万2500人。船艇を約460隻、ヘリコプター・飛行機を約70機擁している。日本列島を11の管区に分け、任務にあたっている。

 大きな仕事の一つが密輸や密航、密漁といった海上犯罪の取り締まりだ。例えば密漁は平成21年に2189件を摘発・送致した。そうした犯罪にかかわる船を追跡し、時には航走中の船に巡視船を接触させて海上保安官が乗り込み(強行接舷)、摘発にあたることもある。当然だが、危険の伴う任務だ。

 今年8月には、瀬戸内海を管轄する第6管区海上保安本部のヘリコプターがパトロール中に墜落した。事後の広報対応の不手際ばかり注目されたが、危険の伴う任務で、5人の海上保安官が命を落としていることを忘れてはいけない。

 同名の漫画が原作のドラマ・映画シリーズ「海猿」で、活躍ぶりが描かれているのが海難救助。厳しい訓練を積んだ「機動救難士」らが、平成21年だけで計1399人を救助している。

 同年10月には、八丈島沖で転覆した漁船の船内から、実に89時間ぶりに3人を助け出した。同年6月には急病の台湾漁船の船長を助けるため、日本からはるか1300キロの沖合まで2隻の巡視船を中継してヘリを急派、無事、船長を国内病院まで運んだ例もある。

 中国漁船をめぐる事件で、改めて脚光を浴びた任務が領海警備や国家権益の保護だ。違法操業や海洋調査船の侵入など、中国をはじめとする外国船の不法行為は後を絶たない。法律上の制約で海保に可能な対応は限られているものの、法令を順守しつつ国境の守りに当たっている。海底地形の調査など、資源発見につながる科学的調査も担っており、権益保護活動の重要な側面といえる。

 海賊事件の頻発する東南アジア海域に巡視船を派遣、周辺国と連携訓練などを実施しているほか、アフリカ東部・ソマリア沖でも海上自衛隊とともに海上保安官が護衛任務にあたっている。

 日本が誇る「海の警察」は、国際的にも活躍の場を広げている。

 ◆外国の海洋調査船、過去5年で30隻が違法活動

 漁船や海洋調査船、漁業監視船、領有権をめぐる抗議船など、日本の領海・EEZにはさまざまな外国船が出没、違法行為を重ねている。

 例えば海洋調査船は過去5年で計110隻が確認され、うち30隻が違法な調査活動をしていた。

 海保は漁船の違法操業には漁業法など関連法令を適用して対処。無線などで警告を発して退去を呼びかけるとともに、今回の中国漁船衝突事件など悪質な事例では摘発に踏み切っており、平成17〜21年で計26件の摘発実績がある。

 難しいのは海洋調査船など、政府所属の「公船」への対処だ。他国の領海・EEZ内での調査は国際法違反だが、やはり国際法上、公船には拿捕(だほ)など“実力行使”はできないことになっており、海保にできる対応も限られている。